●真夜中の散歩
「今日のごはんです」という書き置きとともに置いてあったもの。それは、箸。そして、皿。それだけ。
作業に終われ、昼食を取ることができないまま終電で帰った自分は、生まれて初めて出くわしたあまりの状況に動揺を隠しきれず、自らの目を疑った。だが、何度見ても状況は変わらない。机の上に箸と皿だけがあり、皿の上には何ものっていない。しかし、それはこれから始まる悲劇の序章にすぎなかった。
『なぜなんだ!?』と、あたりをみまわしてみると、そこには父親と犬の添い寝シーン…。
ははーん。さては……。
酔って帰った父親が、犬小屋にいる犬を解き放つ。そして、酔ったまま寝る。そんな状況で犬がすることと言えば、盗み食いしかないではないか。
「ハウス!」
ためしにそう叫んでみると、我が家の名犬はムクッと起き上がり、ダーッと犬小屋に入っていった。
『ジロ、お前は何も悪くないぞ……』
そうつぶやいてから、コンビニに夕飯を買いに行く事を決意。一番近所のコンビニまでは歩いて5分。
「無い……」
大雨の中、辿り着いた先にコンビニは無かった。ついこの間までは確かにあったのに。いつの間にかつぶれてしまったらしい。
ここで下した決断。これが一番まずかった。『次のコンビニまで歩く』という決断だ。
歩く。
歩く。
歩く。
雨で靴がびちゃびちゃになる。
歩く。
歩く。
歩く。
雨で靴下までびちゃびちゃになる。
歩く。
歩く。
歩く。
雨でスーツのズボンまでびちゃびちゃになる。
最終的に『スタミナ弁当』を手に家に辿り着いたのは、1時半だった。真夜中の散歩は1時間にも及んだ。
家に着くと、父親と犬の添い寝シーンは無く、誰もが寝静まっていた。そんな昨日の夜中。
ただ、その後の風呂の気持ち良さとスタミナ弁当のうまさは格別だった。